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「ヒトシ、木曜の夜、チェイサーズで歌うんだ。是非見に来てくれよ」 ケニー マンスは、スリムで髭面のおっさんでした。 白いシャツにブルージーンズ、カウボーイブーツを履いていました。 見ればすぐにわかる、いかにもカントリーシンガーというファッションでした。 音楽科の校舎の前には木陰があり、授業のブレイクにはそこで雑談する事がよくありました。 留学の最初は友達がなかったものの、時間が経つにつれ、声をかけられるようになりました。 軽い会話はどこでも瞬時に始まります。 みんなノリがいい。 問題はどれだけ壁を外せるか?でなかなか本当の友達にまで発展しません。 フルタイムやパートタイムのミュージシャンもいて、殺伐としたムードも漂わせてました。 一緒に理論やジャズを学んでいたケニーの本業は、カントリーシンガーでした。 作曲の為に理論を学びたかったそうです。 髭面のスリムな体格に、白いシャツとブルージーンズとカウボーイブーツ、50歳くらいの渋味の効いた感じ。 でも理論の学びは彼には厳しかったです。 僕はクラスの中で、彼に質問されたりしてたので、あまり期待してませんでした。 ジャズのクラスでも、畑違いで仕方ないけど、苦戦してたので… 正直、乗り気ではありませんでした。 ただちょうど日本から、親友の宮木さんが遊びに来てたので、一応尋ねてみました。 「カントリーのライブなんだけど、行きたい?なんか用事ある?」 「うん、行く行く」 と食いついたので行く事にしました、家から5分もかからない近所でしたが。 宮木さんは僕の影響で、カントリーミュージックが好きでした。 でも観光で色々予定もあるだろうし、嫌ならそれで都合がいいやと。 チェイサーズは、小さなバーでした。 と言ってもアメリカサイズなので、日本の感覚では大きいのかも知れませんが。 南カリフォルニアでカントリーミュージックがどうなのか? ライブに行くのは全てジャズ系だったので、ちょっと新鮮でした。 店に入って、ケニーが歌ってるなと確認し、周りを見渡しました。 如何にもという感じの薄汚いバー…狭いステージのバックにはチープな装飾が施してあります。 白人ばかりのバーでした、やはりカントリーバーってそうなのか。 「あ、キャシーじゃん」 時々クラスで見かける可愛いい子がいました。 彼女もケニーに誘われたそうです。 ハーイ、と挨拶して別のテーブルを選びました。 ドリンクをオーダーし、ちょっと聴いてみるかという程度だったんです。 でも即座に、世間知らずの傲慢な自分に気づきました。 いつものケニーではない、というかこれがケニーの本当の姿なのか… 僕は打ちのめされました。 淡々と歌うその振る舞いは、熟練ミュージシャンそのものです。 ケニーロジャースとウィリーネルソンの中間くらいの強い声。 歌い回しがハードコアなカントリーシンガーでした。 ギターも上手い、自分の歌を知り尽くした伴奏という感じです。 フットスイッチでリズムマシンを操りながらの、弾き語りでした。 素晴らしいな、さすがだよなぁ、と感動したのを覚えてます。 歌っていいなあ、弾き語りって最強だなあと。 しばらく見入っていたのですが、時々視界に入るキャシーが気になりました。
ケニーを観ながら、宮木さんと飲みながら、話しながら… コメントの受け付けは終了しました。
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4月 2023
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